海の京都物語 第88話 久美浜の海に眠る龍伝説、一遍上人が見た奇跡どす|日本酒YUTAKA(豊)
海の京都物語、第88話は京丹後市久美浜町のお話どす。これまでこのシリーズでは、久美浜町のシンボルであるかぶと山や、丹波道主命ゆかりの神谷太刀宮、静かな山寺の如意寺など、久美浜のあちこちをご紹介してまいりました。今回は少し趣向を変えて、久美浜の海に静かに、けれどしっかりと伝わってきた「龍」の言い伝えを訪ねてみとうおもいます。
久美浜湾言うたら、砂州によって日本海と隔てられた、周囲約28キロにおよぶ穏やかな潟湖どす。カキの養殖でも知られるあの美しい水面の底には、実は古墳時代から鎌倉時代にかけて、幾重にも語り継がれてきた不思議な龍の物語が眠ってはるんどす。風のない日、鏡みたいに凪ぐ久美浜湾を眺めてると、確かにどこか神秘的な気配を感じることがおす。
なかでもいちばん有名なんが、時宗の開祖として知られる一遍上人にまつわる言い伝えどす。全国を旅しながら「南無阿弥陀仏」の念仏札を配り、踊り念仏で布教して回らはったお方どすが、その足跡はここ久美浜にも、はっきりと刻まれておすんどす。旅先で出会う人々の暮らしぶりをつぶさに絵に残す、その旅の記録の中に、遠く丹後の海辺の村の姿もちゃんと描き留められとるんどす。
🌊弘安八年、久美の浜での出来事
時は弘安八年(1285年)。一遍上人が丹後国の「久美の浜」を訪れ、村人たちと共に踊り念仏を行わはった時のことどす。当時この地は日照りに苦しんでおって、田畑の作物も枯れそうになっとったそうどす。一遍上人が人々のために一心に念仏を唱えたところ、久美浜湾の海中から一匹の龍が姿を現し、たちまち空が曇って恵みの雨が降り注いだ、という言い伝えが今も残ってます。
この不思議な出来事は、国宝に指定されている絵巻物『一遍聖絵』の巻第八にも描かれていると伝わってます。八百年近くも前に描かれた国宝の絵巻に、自分たちの町の海の風景が残されてるやなんて、久美浜の方にとってはほんまに誇らしいお話どすなあ。当時の人々にとって、日照りは田畑だけやのうて、暮らしそのものを脅かす切実な出来事やったはずどす。そんな中で一心に手を合わせる村人たちの姿と、海から現れる龍。今も昔も、この海が人々の暮らしと祈りに寄り添うてきたことが、しみじみと伝わってくるようどす。
🐉龍の化身が住まう湾
久美浜には、もうひとつ龍にまつわる言い伝えがおす。湾の中に突き出た大明神岬には、日本書紀にも登場する将軍・丹波道主命のお墓と伝わる場所があって、この岬には龍の化身が住んではる、という古いお話どす。実は久美浜湾を高いところから見渡すと、その姿がまるで一匹の龍が水面をゆったり進んでいくように見える、とも言われてるんどす。
久美浜という地名自体、丹波道主命の刀剣「国見の剣」に由来して「国見(クニミ)」が「久美(クミ)」へと変化したものという説もあるそうで、この土地は古くから龍や剣といった、どこか神々しいものと深いご縁があるんどすなあ。実際に久美浜湾を眺めてみると、湾口の砂州から奥の入り江までがゆるやかに弧を描いとって、なるほど龍が横たわっとるように見えてくるから不思議なもんどす。ひとつの湾にふたつの龍伝説が残っとるやなんて、久美浜はほんまに「龍の里」と呼びとうなる場所どす。
⚔千五百年前から龍とともに
実は久美浜の龍とのご縁は、伝説の中だけの話やおへん。久美浜町の湯舟坂2号墳という古墳からは、「金銅装双龍環頭大刀」いう、柄の先に二匹の龍が向き合う姿を鋳出した太刀が出土してます。古墳時代からすでにこの土地の人々が、龍を尊く力強いものとして大切にしてきたことがうかがえる、貴重な遺物どす。
一遍上人が念仏を唱えた鎌倉時代よりも、さらにずっと昔から、久美浜の人々は龍という存在と共に暮らしてきたんどすなあ。海の恵みも、田畑を潤す雨も、すべては目に見えん大きな力からもたらされるもの。そんな畏れと感謝の気持ちが、時代を超えて「龍」という姿に託されてきたんかもしれまへん。一本の太刀と、一巻の絵巻と、ひとつの岬。ばらばらの時代に生まれたはずの言い伝えが、久美浜という同じ海を舞台に、まるで示し合わせたように「龍」でつながっとるんは、ほんまに不思議などすなあ。
🚣今も息づく龍のこころ
こないな古い言い伝えは、今の久美浜でもしっかり生き続けてます。毎年夏になると久美浜湾では「京丹後市ドラゴンカヌー選手権大会」が開催され、龍を模した舟に乗った選手たちが太鼓の音に合わせて力いっぱい水面を漕ぎ進みます。八百年近く前に一遍上人が見たかもしれん龍が、今度はカヌーの姿を借りて、夏の久美浜湾にまた帰ってきてはるんかもしれまへんなあ。
思えば「豊-YUTAKA-」という名前も、この土地に降り注いだ恵みの雨や、そこから育った豊かな実りへの願いと、どこか重なるところがおす。日照りの村を救った雨と龍の物語は、豊かな水と米から生まれる日本酒そのものにも、そっと通じるお話のように感じますなあ。
📍行っ得メモ
・久美浜湾:京都府京丹後市久美浜町一帯に広がる、周囲約28kmの潟湖(汽水湖)
・アクセス:京都丹後鉄道(丹鉄)宮豊線「久美浜駅」から車や徒歩で湾岸エリアへ
・湾を見渡すなら、かぶと山展望台や久美浜公園付近からの眺めがおすすめどす
・夏には湾内で「京丹後市ドラゴンカヌー選手権大会」が開催されます(開催日は年により異なるため事前にご確認を)
静かな久美浜湾を眺めてますと、八百年前に一遍上人が見たはずの龍の姿と、千五百年前の職人が太刀に刻んだ龍の姿が、波間にふっと重なって見えてくるような、そんな気ぃがしてきますなあ。海と信仰と、人々の祈りが静かに響き合う久美浜、また折を見て違う角度からもご紹介できたらとおもいます。皆さんも久美浜湾のほとりに立たはる機会がおしたら、ちょっと目を凝らして、水面のどこかに眠る龍の気配を探してみてはいかがどすやろか。
ほな、また次回のお話でお会いしましょう。
これからもどうぞよろしくお願いします。
FAQ
Q. 久美浜に伝わる龍伝説とはどんな話どすか?
A. 鎌倉時代の弘安8年(1285年)、時宗の開祖・一遍上人が久美の浜で踊り念仏を行った際、日照りに苦しむ人々のために念仏を唱えたところ、海中から龍が現れて雨をもたらしたという言い伝えどす。この出来事は国宝の絵巻物『一遍聖絵』巻第八にも描かれていると伝わっています。
Q. 大明神岬に伝わる龍伝説とはどんなお話どすか?
A. 久美浜湾に突き出た大明神岬には、丹波道主命のお墓と伝わる場所があり、この岬には龍の化身が住むと言い伝えられています。久美浜湾を上から見渡すと、その姿が龍のように見えることから生まれた伝説とされています。
Q. 久美浜には龍にまつわる史跡や祭りはおすか?
A. 久美浜町の湯舟坂2号墳からは、龍をかたどった「金銅装双龍環頭大刀」が出土しています。また現代では、毎年夏に久美浜湾で「京丹後市ドラゴンカヌー選手権大会」が開催され、龍をイメージした舟のレースが行われています。
Q. 久美浜湾へはどうやって行けますか?
A. 京都丹後鉄道(丹鉄)宮豊線の久美浜駅からアクセスできます。湾を見渡すなら、かぶと山展望台や久美浜公園付近からの眺めがおすすめどす。時期やイベント開催日は事前に京丹後市観光公社などでご確認ください。
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