海の京都物語 第90話 土から生まれる百五十の恵み、大宮町「自然耕房あおき」を訪ねて|日本酒YUTAKA(豊)
海の京都物語も、はや第90話を迎えました。舞鶴の海辺から始まり、宮津・天橋立、伊根の舟屋、与謝野の織物のまちを経て、平成十六年(2004年)に六つの町が合わさって生まれた京丹後市へ。丹後半島をぐるりと巡ってまいりましたこの旅も、今回でいよいよ「京丹後市編」第二部(第81話〜第90話)の締めくくりどす。
京丹後市を構成する六つの旧町のひとつ、大宮町(おおみやちょう)。丹後ちりめんの機音が響いた織物のまちであり、内山のブナ林や大宮売神社など、豊かな自然と歴史が息づく土地どす。竹野川の上流にあたる大宮南の一帯は、里山にすっぽり抱かれた穏やかなエリアで、昼夜の寒暖差が大きい厳しい気候が、かえって野菜の味を濃うしてくれるんやそうどす。せやから今日は、そんな大宮町の「食」を静かに支えてくはる、ある農園のお話をさせてもらいますね。
訪ねるのは、大宮町奥大野にある「自然耕房あおき」さん。農薬も化学肥料も使わず、二十年以上かけて土そのものを育て続けてきはった、女性たちが中心となって営む自然農園どす。五ヘクタールの畑に、年間およそ百五十種類もの野菜が実るいいます。
🌱三十年経っても、と笑われた土づくり
はじまりは平成十三年(2001年)、大阪から移り住んだ青木伸一さんが、大宮町奥大野の畑で自然農法に挑んだことどした。広葉樹のウッドチップを土にすき込むという試みには、指導してくれた先生からも「そんなことをしても三十年経っても野菜なんかできひん」と言われたそうどす。せやけど伸一さんは諦めんと土と向き合わはりました。やがて放線菌がチップをじわじわ分解し、目には見えん小さな微生物のはたらきで、土は少しずつ、いのちを育む豊かな土壌へと変わっていったんどす。
転機になったんは、川原の刈り草を敷いた場所に育った一株の青梗菜やったそうどす。まるで白菜みたいに大きゅう育って、葉っぱは柔らこうて甘うて、なんとも言えん美味しさやったと言わはります。「自分の目で見たことだけが真実」。伸一さんはそう信じて、資格や肩書きに頼らんと、自分の畑と対話しながら、農薬にも化学肥料にも頼らん栽培をコツコツ貫かはりました。
🥬一年に百五十種類、いのちが巡る畑
今、この畑では年間およそ百五十種類もの野菜が育っとります。じゃがいもや大根、白菜、人参いった定番野菜はもちろん、プチヴェールやカーボロネロ、紫唐辛子いうた聞きなれん珍しい品種まで、季節ごとにガラッと表情を変えるんどす。土のちからだけで育った野菜は、味が濃うて香りも強い言われとります。育った野菜は、関西各地のホテルやレストランの厨房へも届けられとるほか、オンラインショップを通じて遠くの食卓にも並んどるそうどす。
🌏地域とつながる、いのちの循環
こないな取り組みが評価され、自然耕房あおきさんは京丹後市が掲げる「SDGs未来都市」の取組事例としても紹介されとります。キーワードは「命が循環する仕組みを作る」。農業を中心にしたコミュニティを大宮町に根付かせ、地域とつながりながら、子どもたちの未来を守っていきたい、いう願いが込められとります。派手な看板を掲げるでもなく、山あいの畑でコツコツ積み重ねてきはった二十年余りが、こないな形で外からも評価されるいうんは、ほんまに嬉しいことどすなあ。土づくりも、人と人とのつながりづくりも、どちらもコツコツ時間をかけてこそ、いうことがようわかるお話どす。
👩🌾いのちをつないだ、女性たちの手
平成二十七年(2015年)、創業者の伸一さんが急逝されたあと、畑を継がはったんは奥様の青木美恵さんどした。保育士さんやフラワーコーディネーター、助産師さんいうた、農業とはまた違う道を歩んでこられた女性たちが「この畑を絶やしたらあかん」と賛同して集まらはり、平成二十八年(2016年)に法人化。今では女性スタッフが中心となって、地域の方や福祉施設、遠方から通うサポーターとも力を合わせながら、この畑をこれからの世代へとつないだはります。
夏には「畑のレストラン」いう催しも開かれ、畑の真ん中に置かれたテーブルで、採れたての野菜をその場で味わえる体験ができるそうどす。土に触れて、収穫して、料理して、味わう。そないな一日を通して、この土地の恵みをまるごと感じてもらいたい、いう思いが込められとります。英語に対応してくれはるスタッフもいてはるそうやから、遠方から、時には海外から訪ねてきはるお客さんも、安心して畑の時間を楽しめるんやそうどす。せっかく大宮町まで足を運ぶんやったら、こういう一日がかりの体験も、旅の楽しみに加えてみておくれやす。
📍行っ得メモ
・所在地:京都府京丹後市大宮町奥大野676-1
・お問い合わせ:0772-64-2028(自然耕房あおき)
・「畑のレストラン」は夏季開催、収穫体験ランチなどは要予約
・野菜はオンラインショップでも購入可能、詳細は公式サイトでご確認を
農薬に頼らんと、土のちからだけで野菜を育てるいう営みは、目に見えん微生物のはたらきをじっくり信じて、時間をかけて向き合わなあかんという点で、お米を麹と酵母のちからでゆっくり醸していく日本酒づくりとどこか重なる気がします。急かさんと、土や米や酒が育つ時間にとことん寄り添う。大宮町の畑にも、YUTAKAの蔵にも、そないな静かな心意気が流れとるんやないでしょうか。先立たれたご主人の想いを、奥様と仲間の女性たちが受け継いで、今日も畑に立ちはる。そないな姿を知ってから口にする一皿は、きっといつもよりちょっと味わい深うなるはずどす。丹後の旅の途中、大宮町にお立ち寄りの際は、ぜひこの畑のいのちにも思いを馳せてみておくれやす。海の京都をぐるりと巡ってきた第二部も、今回で一区切りどす。次はいよいよ、シリーズ最終章となる第三部(第91話〜第100話)へと続いてまいります。
ほな、また次回のお話でお会いしましょう。
これからもどうぞよろしくお願いします。
FAQ
Q. 自然耕房あおきはどこにありますか?
A. 京都府京丹後市大宮町奥大野676-1にあります。里山に抱かれた大宮南のエリアにあり、丹後大宮駅からお車での移動が便利どす。詳しいアクセスは公式サイトやお電話(0772-64-2028)でご確認ください。
Q. どんな栽培方法をしてはるんですか?
A. 農薬や化学肥料を一切使わない自然農法どす。広葉樹のウッドチップや刈り草、もみ殻を土にすき込み、放線菌をはじめとする微生物のちからで土そのものを豊かに育てるという、二十年以上かけた土づくりが特徴どす。
Q. どんな野菜が栽培されてますか?
A. じゃがいもや大根、人参、白菜いった定番野菜から、プチヴェールやカーボロネロ、紫唐辛子いうた珍しい品種まで、年間およそ百五十種類もの野菜が季節ごとに育てられとります。
Q. 「畑のレストラン」とはどんな体験ですか?
A. 夏に開かれる、畑の中のテーブルで採れたて野菜を味わえる催しどす。見学や収穫、調理体験がセットになったランチプログラムもあり、英語対応スタッフもいてはります。要予約となっとりますので、訪れる際は事前にお問い合わせください。
京都 丹後