海の京都物語 第91話 白鷺の伝説あたたか、網野「木津温泉」を訪ねて|日本酒YUTAKA(豊)
海の京都物語も第91話まで来ましたなあ。網野町いうたら、鳴き砂の琴引浜や離湖、浦嶋伝説の網野神社と、これまでもぎょうさん見どころをご案内してきましたが、今日はちょっと違う角度から網野町を歩いてみとうと思います。
向かう先は、日本海の砂浜からちょっと内陸へ入った、水田と果樹園に囲まれたのどかな里。そこにひっそり湧いとるんが「木津温泉」どす。
京都府内でも屈指の歴史を持つと言われるこの湯は、派手さはないけれど、訪れた人をじんわりあたためてくれる、そんな温泉どす。今日はその由来と歩みを、ゆっくり辿ってみまひょ。
🐦 白鷺が舞い降りた、いにしえの湯だまり
木津温泉の始まりについては、地元の中性院に伝わる文書に、こんな言い伝えが残されとります。奈良時代の天平年間、疫病に苦しむ村人たちのそばで、傷ついた白鷺が湯だまりに身を浸して傷を癒しとる姿が目撃され、そこから温泉が見いだされたという伝説どす。発見者は、諸国を巡り仏教を広めた僧・行基やと伝えられとります。
もっとも、こうした開湯伝説の常として、中世以前を裏づける確かな史料は残っておらず、これはあくまで「言い伝え」として大切にされてきたお話どす。それでも、白い鳥が傷を癒す情景いうんは、なんとも京都・丹後らしい、静かで美しい物語やと思わはりませんか。
確実な記録として辿れるんは、江戸時代の天明年間(1781〜1789年)に、この地で井戸が掘られとったという事実どす。伝説の時代からずっと後になっても、村人たちがこの湯を大切に守り続けてきたことがうかがえますなあ。
♨️ 湯守たちが磨いた、江戸から明治への歩み
木津温泉が本格的に「温泉地」として姿を整えていくんは、近代に入ってからのことどす。明治19年ごろの記録では、泉温はまだ摂氏32度ほど、年間の利用客はおよそ7,300人やったと伝わっとります。ぬるめの湯を、地元の方々がこつこつ育てはった時代どすなあ。
転機になったんは明治44年(1911年)。このとき、摂氏43度という高温の湯を掘り当てることに成功し、翌年には公共の浴場が開設されました。さらに大正2年(1913年)には「京都府下唯一の温泉」として広く宣伝されるまでになり、湯治客が遠方からも訪れる名湯へと育っていったんどす。
温泉の泉質は、無色透明のアルカリ性単純温泉。皮膚病への効能をはじめ、筋肉痛や関節のこわばりにもええと言われてきました。派手な観光地化はせんかったぶん、今も昔ながらの、静かで落ち着いた湯治場の雰囲気を残しとるのが木津温泉の魅力どす。
📖 松本清張が愛した湯宿「ゑびすや」
木津温泉には、文学ファンには見逃せない歴史も眠っとります。推理作家・松本清張が、1965年6月から約2か月間、木津温泉の老舗旅館「ゑびすや」の大正館に逗留し、長編小説『Dの複合』を執筆しゃはったんどす。
もともとは一週間ほどの滞在予定やったそうですが、この土地の静けさとお湯をすっかり気に入り、大幅に滞在を延ばさはったという逸話が残っとります。作品の中では、この宿は「浦島館」という名前で登場してます。網野町ゆかりの浦嶋伝説と重なる名づけに、清張はんの遊び心を感じますなあ。
今もこの地で旅館を営む方々にとって、この物語は誇りとして語り継がれとります。静かな湯と豊かな筆致が結びついた、木津温泉ならではのエピソードどす。
🚉 駅に湧く、白鷺にちなむ足湯
木津温泉の玄関口となるんが、京都丹後鉄道宮豊線の「夕日ヶ浦木津温泉駅」どす。この駅は1931年(昭和6年)に開業し、翌1932年には国鉄宮津線が全線開通、丹後半島の交通の要としても歩んできました。
駅舎は、どこか昔ながらの湯宿を思わせる、白と黒のコントラストが美しい佇まい。その構内には、源泉を引いた低温の足湯「しらさぎの湯」が設けられとって、9時から17時まで利用できます。列車を待つ合間や、散策の足休めにちょうどええ、旅人にうれしい設えどす。
今も木津温泉には、ゑびすやをはじめとする数軒の旅館が営業を続けとり、地元の網野高齢者すこやかセンターでは日帰り入浴も受け付けてはります。派手な観光地ではないぶん、地元の暮らしに寄り添うような、あたたかい湯どすなあ。
📍行っ得メモ
・住所:京都府京丹後市網野町木津(郵便番号629-3241)
・アクセス:京都丹後鉄道宮豊線「夕日ヶ浦木津温泉駅」下車すぐ〜徒歩圏内。お車の場合は山陰近畿自動車道「京丹後大宮IC」から国道312号・17号・178号を経由
・足湯「しらさぎの湯」:夕日ヶ浦木津温泉駅構内、利用時間9:00〜17:00
・日帰り入浴:網野高齢者すこやかセンターにて。営業時間10:00〜19:00(入浴は15:00〜19:00)、月曜定休(祝日の場合は翌日休)、料金は60歳未満380円・市外の方600円・市内60歳以上250円(お問い合わせ0772-74-9111)
・見どころのポイント:白鷺伝説にちなむ足湯の名前と、松本清張ゆかりの旅館「ゑびすや」。海水浴シーズンを外れた春や秋は、静かな湯治場らしい雰囲気をゆっくり味わえます
木津温泉の話を書きながら、なんや心があったこうなってきましたわ。白鷺が傷を癒したいう伝説、天明の頃から湯を守ってきた村人たち、そして松本清張はんが二か月も筆を執らはった静かな時間。派手さはなくとも、こうして幾重にも積み重なった物語が、この小さな温泉地には眠っとるんどすなあ。
湯上がりの体に、キリッと冷やした純米大吟醸YUTAKAを一杯。白鷺が舞い降りたという伝説の湯だまりに思いを馳せながらいただくお酒は、いつもよりちょっと沁みる気がしますえ。網野町を歩いたら、ぜひこの静かな名湯にも足を延ばしてみておくれやす。
ほな、また次回のお楽しみに。
これからもどうぞよろしくお願いします。
FAQ
Q. 木津温泉はいつ頃からある温泉どすか?
A. 地元の中性院に伝わる文書には、奈良時代の天平年間に白鷺が傷を癒す姿から発見されたという伝説が残っとります。ただし中世以前を裏づける確かな史料はなく、確実に記録として辿れるんは江戸時代の天明年間(1781〜1789年)に井戸が掘られていたという事実どす。開湯の時期には諸説あることも知っておいてもらえると嬉しいどす。
Q. 松本清張ゆかりの宿というのは本当どすか?
A. 本当どす。推理作家・松本清張は1965年6月から約2か月間、木津温泉の旅館「ゑびすや」の大正館に逗留し、長編小説『Dの複合』を執筆しゃはりました。作中ではこの宿が「浦島館」という名前で登場してます。
Q. 日帰りでも入浴できますか?
A. できます。地元の網野高齢者すこやかセンター内の浴室で日帰り入浴を受け付けてはります。営業時間は午前10時〜午後7時(入浴は午後3時〜7時)、月曜定休(祝日の場合は翌日)どす。事前に電話(0772-74-9111)で確認してから行かはるのが安心どす。
Q. 駅の足湯「しらさぎの湯」はどんな施設どすか?
A. 京都丹後鉄道「夕日ヶ浦木津温泉駅」の構内にある、源泉を引いた低温の足湯どす。営業時間は9時から17時までで、列車を待つ合間や散策の休憩にぴったり。白鷺伝説ゆかりの土地らしい名前がつけられとります。
京都 丹後