海の京都物語 第82話 小天橋が守る静かな湾、久美浜かきの一年|日本酒YUTAKA(豊)
海の京都物語も、はや第82話を数えるようになりました。京丹後市を巡るシリーズはここまで、峰山町の丹後ちりめんから始まり、大宮町、網野町、丹後町、弥栄町と、それぞれの町の歴史や自然、産業を訪ねてまいりました。久美浜町についても、かぶと山や神谷太刀宮といった史跡をご紹介してきましたが、今日はちょっと趣向を変えて、久美浜町の「食」に光を当てたいと思います。
久美浜町は、2004年に峰山町・大宮町・網野町・丹後町・弥栄町とともに合併して京丹後市になった、旧六町のひとつどす。日本海と丹後半島の付け根に抱かれたこの町には、山あり、湖あり、砂浜ありと、豊かな自然がぎゅっと詰まってはります。そのなかでも今日ご紹介したいんは、久美浜湾で育つ「久美浜かき」どす。
京都の内陸部にいてはる方には意外に思われるかもしれませんが、日本海に面した久美浜町には、波静かな湾を舞台にした牡蠣養殖の営みが、昔から受け継がれてきましたんや。日本海側で牡蠣養殖が盛んな場所いうのは、実は全国的にもそう多くはおへん。久美浜湾は、そのなかでも指折りの産地どす。
🌊小天橋が守る、静かな内海
久美浜湾は京丹後市久美浜町にある内湾で、東側は「小天橋」と呼ばれる細長い砂州によって日本海から仕切られてはります。日本海側は冬になると荒波が押し寄せる海として知られてますが、この小天橋のおかげで湾内は驚くほど穏やかどす。波の荒い日本海に面していながら波は静かという、ちょっと珍しい環境が、牡蠣が安心して育つゆりかごになってるんですね。
まるで湖のように穏やかな久美浜湾の水面を眺めていると、すぐ向こうが日本海やということを、つい忘れてしまいそうになります。この地形あってこその、久美浜かきなんどす。
⛰山からの恵みが育てるプランクトン
湾のまわりは山々に囲まれ、山から湧き出る水や、約10本もの河川が久美浜湾に流れ込んでますよって、栄養がぎょうさん運ばれてきます。この豊かな水がプランクトンを育て、牡蠣の餌となる植物プランクトンが湾内にたっぷり育つんどす。
おかげで、通常なら3年ほどかかる牡蠣の生育が、久美浜湾ではおよそ1年で身がしっかり大きく育ち、味も濃くなるといわれています。山の恵みと海の恵みが、久美浜湾のなかでぎゅっと出会うてる、いうことなんですやろな。
🚣竹の筏に揺られて育つ、一年
養殖の方法は、竹や間伐材で組んだ筏に種カキをロープで取り付け、海面から吊るす「垂下式」どす。種カキは早春の3月から4月ごろに筏へ吊るされ、漁師さんたちは種カキの成長にあわせて水深を変え、水温を調整しながら大切に育てていかはります。
西部の河内湾あたりに広がる牡蠣棚は特に規模が大きく、筏がずらりと連なる光景は見応えがおす。この牡蠣棚と、背後にそびえる山並みが織りなす風景が、後ほどご紹介する「文化的景観」にもつながっていきます。
🍚「海のミルク」と呼ばれる濃厚な味わい
久美浜かきの旬は、11月中旬ごろから翌年5月末まで。11月になると地元の飲食店にも並びはじめ、鍋物やフライでいただくのが定番どす。栄養が豊富なことから「海のミルク」とも呼ばれ、ビタミンやミネラルをたっぷり含んでます。
今は主に加熱用として親しまれてますが、これは鮮度の違いやのうて、養殖している海域の水質の分類によるもの。滅菌システムの導入など、生食用としても味わえるようにという取り組みも進められているそうどす。これから先、久美浜かきの楽しみ方がますます広がっていくかもしれません。
🏞牡蠣棚が描く、京都府選定の景観
久美浜湾の牡蠣養殖は久美浜町の大切な産業で、100軒を超える漁業者さんが携わってはります。そして小天橋の西端から南側を見渡したときに広がる、牡蠣棚と背後の山並みが織りなす風景は、京都府の文化的景観にも選定されてるんどす。
人の営みと自然が、長い年月をかけて少しずつ作り上げてきた、久美浜ならではの景色やと思います。牡蠣そのものの味だけやのうて、その味を育む風景ごと味わうてみたい、そんな気持ちにさせられます。
🍶蒸し牡蠣と、キレのある一杯
久美浜かきをいただくときには、脂の甘みに負けん、キリッとした純米大吟醸を合わせるんが、個人的にはお気に入りどす。蒸し牡蠣のふっくらとした身に、後味のすっきりした一杯を添えると、口のなかで海のミルクの旨みだけがふわりと残るような、そんな心地よさがおす。
久美浜湾の穏やかな水面と、そこで育まれる濃厚な牡蠣。丹後の海と山が育んだ滋味は、同じ丹後の地で仕込まれる日本酒とも、きっと相性がええんやろなと、しみじみ思います。
📍行っ得メモ
・久美浜湾の牡蠣棚は京丹後市久美浜町、小天橋・河内湾のあたりに広がっています
・久美浜かきの旬はおよそ11月中旬〜5月末で、地元の飲食店や直売所で味わえます
・現在は加熱用が中心で、鍋物やフライでいただくのが久美浜での定番どす
・京都丹後鉄道宮豊線「久美浜駅」からエリア一帯へアクセスでき、車での周遊が便利どす
静かな湾と、山からの恵みと、漁師さんたちの丁寧な手仕事が幾重にも重なり合って、あの濃厚な久美浜かきが育っていくんやなぁと思うと、一つひとつの牡蠣がなんや愛おしく感じられます。鍋の湯気の向こうに、小天橋に守られた久美浜湾の穏やかな水面が浮かんでくるような、そんな滋味深い味わいどす。
かぶと山からの眺めや、神谷太刀宮のいにしえの物語だけやのうて、こうして日々の食卓を支える営みもまた、久美浜町の大切な宝物どす。海の京都には、こうして自然と人の営みが織りなす味わいが、まだまだぎょうさん眠ってるんどす。久美浜町を訪ねはる機会がありましたら、ぜひ久美浜かきと一緒に、その景色にも思いを馳せてみてください。
ほな、また次回のお話でお会いしましょう。
これからもどうぞよろしくお願いします。
FAQ
Q. 久美浜かきとはどんな牡蠣どすか?
A. 京都府京丹後市久美浜町の久美浜湾で養殖されている牡蠣どす。湾は「小天橋」という砂州で日本海と隔てられて波が穏やかなうえ、山からの川の水で栄養が豊富なため、身が大きく濃厚な味わいに育つのが特徴どす。
Q. 久美浜かきの旬はいつごろどすか?
A. だいたい11月中旬ごろから翌年5月末までが旬とされ、11月になると地元の飲食店にも並びはじめます。鍋物やフライでいただくのが定番の食べ方どす。
Q. 久美浜かきは生で食べられますか?
A. 現在は主に加熱用として流通しています。これは鮮度の違いではなく養殖している海域の水質分類によるもので、鍋物やフライにして美味しくいただくのが一般的どす。生食用としても楽しめるよう、滅菌システムの導入といった取り組みも進められているそうです。
Q. 久美浜湾の牡蠣棚は見学できますか?
A. 牡蠣棚は久美浜湾の小天橋・河内湾周辺に広がっており、小天橋の西端から見渡す牡蠣棚と山並みの景観は京都府の文化的景観にも選定されています。京都丹後鉄道宮豊線「久美浜駅」からエリアへアクセスできます。
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