海の京都物語 第99話 千三百年前の絹、弥栄町鳥取の「絁の碑」を訪ねて|日本酒YUTAKA(豊)
海の京都物語もいよいよ第99話、残すところあと1話となりましたなあ。京丹後市シリーズも61話から続けてまいりましたが、今回はもう一度、弥栄町(やさかちょう)にお邪魔いたします。これまで大田南古墳群の銅鏡や、味土野の細川ガラシャ、太鼓山のクラフトジンなど、いろんな弥栄町の顔をご紹介してきましたが、今日はぐっと時代をさかのぼって、"絹の里・弥栄"の原点ともいえる場所へご案内どす。
丹後ちりめんといえば享保年間(1720年頃)に峰山や加悦谷で花開いた織物として知られていますが、実はそのはるか昔から、丹後の地は絹の産地として都に知られていたんどす。その証拠が、奈良の正倉院に、今もひっそりと保管されているんどすえ。
📜正倉院に眠る「丹後国竹野郡鳥取郷」の絹
奈良・東大寺の正倉院には、全国各地から納められた税としての布「調庸布」が数多く収蔵されています。その中に、天平11年(739年)10月、「丹後国竹野郡鳥取郷(たんごのくにたけのぐんとっとりごう)」から納められた「絁(あしぎぬ)」と呼ばれる平織りの絹織物が伝わっているんどす。
絁とは、日本国内で織られた絹織物のことで、当時は中国渡来の高級な絹に対してやや格が下がるものとされていましたが、後に品質の差はほとんどなくなったとされています。正倉院の絁の多くには製造地を示す墨書の銘が残されており、それによって「丹後国竹野郡鳥取郷」という当時の地名が今日まで伝わっているんどす。この竹野郡鳥取郷が、現在の京丹後市弥栄町鳥取(とっとり)の一帯にあたるといわれています。丹後ちりめんが花開くおよそ千年も前から、この土地の人たちが絹を織り、都へ納めていた――そう考えると、弥栄の機音の歴史の長さに、あらためて驚かされますなあ。
🪨昭和43年に建てられた「絁の碑」
その千三百年前の絹の記憶を今に伝えるのが、弥栄町鳥取に立つ「絁の碑」どす。この碑は明治100年にあたる昭和43年(1968年)に、先人たちの遺徳を偲び、丹後ちりめんのさらなる発展を祈願して建立されたと伝えられています。
正倉院に「鳥取郷」の絁が納められていたという歴史的事実は、丹後が古代から連綿と続く"布の里"であることの何よりの証。丹後ちりめん回廊が2017年に日本遺産に認定される、そのはるか手前から、弥栄の人たちはこの土地の誇りを一つの石碑に刻んで守ってきたんどすなあ。峰山駅から車で10分ほどの、決して観光地然としていない静かな場所にこの碑があること自体が、弥栄町という土地の奥深さを物語っている気がします。
♨️その名を継いだ「弥栄あしぎぬ温泉」
そしてこの「あしぎぬ」の名前、実は今も弥栄町で生き続けているんどす。弥栄町木橋にある日帰り温泉施設「弥栄あしぎぬ温泉」がその名を受け継いでいます。弥栄の平野を見下ろす丘の上に立ち、ナトリウム-カルシウム-硫酸塩温泉というアルカリ性の高温泉を、露天風呂やジャグジー、サウナなど10種類ものお風呂で楽しめる施設どす。
面白いのは、「王国の湯」と「卑弥呼の湯」という2つの浴場が日替わりで男女入れ替わること。丹後がしばしば"丹後王国"や女王の伝説になぞらえて語られる、そんな地域の物語性がお風呂の名前にまで息づいているんどすね。しかも廃てんぷら油や木材チップを燃料にお湯を沸かしているそうで、環境にも配慮した今どきの温泉。千三百年前の絹の記憶と、令和のエコな湯けむりが、同じ地名の下でつながっている――弥栄町らしい、時間の重なり方どすなあ。
📍行っ得メモ
・絁の碑:京丹後市弥栄町鳥取。京都丹後鉄道・峰山駅から車で約10分。静かな集落の中にあるため、訪問時は地域の方への配慮を忘れずに。
・弥栄あしぎぬ温泉:京都府京丹後市弥栄町木橋548。営業時間10:00〜22:00(最終受付21:30)、定休日は毎週水曜(祝日と8月は営業)。
・弥栄あしぎぬ温泉へは山陰近畿自動車道・京丹後大宮ICから車で約20分。日帰り専用でレストラン・売店も併設どす。
・「王国の湯」「卑弥呼の湯」は日替わりで男女入れ替え制。訪問前に当日の割り当てを確認するのがおすすめどす。
・料金や当日の浴場割り当てなど最新情報は、訪問前に公式情報でのご確認をおすすめします。
絁の碑の前に立って、千三百年前にこの土地の人たちが丹精込めて織り上げた絹に思いを馳せたあと、あしぎぬ温泉でゆっくり汗を流す。そんな一日の締めくくりに、ぜひ純米大吟醸YUTAKAを一杯どうぞ。
ハクレイ酒造が丹後の水と米で醸したYUTAKAの、すっと澄んだ味わいは、正倉院にまで伝わった弥栄の絹糸のように、静かで、けれど確かな存在感があります。お猪口を傾けながら、丹後ちりめんの三百年よりもさらに古い、弥栄町の"糸"の物語に、しばし想いを重ねてみてくださいね。
長く続けてまいりました京丹後市シリーズも、あと1話。次はいよいよ最終話どす。
ほな、また次回のお楽しみに。
これからもどうぞよろしくお願いします。
FAQ
Q. 「絁(あしぎぬ)」とはどんな布のことですか?
A. 絁は日本国内で織られた平織りの絹織物のことどす。奈良時代、各地から税(調庸)として朝廷に納められており、正倉院にはその現物が今も伝わっています。丹後国竹野郡鳥取郷(現在の京丹後市弥栄町鳥取周辺)から納められた絁もその一つで、739年という年号が記録に残っているんどす。
Q. 絁の碑と丹後ちりめんはどういう関係がありますか?
A. 丹後ちりめんは1720年頃に始まった織物ですが、それより千年近く前から丹後の地では絹織物が作られ、都に納められていました。絁の碑は、その古い絹づくりの歴史をたたえ、丹後ちりめんのさらなる発展を祈って昭和43年に建てられた石碑どす。
Q. 弥栄あしぎぬ温泉の泉質や特徴を教えてください。
A. ナトリウム-カルシウム-硫酸塩温泉というアルカリ性の高温泉で、露天風呂やジャグジー、サウナなど10種類のお風呂が楽しめます。「王国の湯」「卑弥呼の湯」が日替わりで入れ替わるのも特徴で、廃食用油や木材チップを燃料に使う環境配慮型の温泉としても知られています。
Q. 純米大吟醸YUTAKAはどんな味わいのお酒ですか?
A. 京丹後市の水と米を使い、ハクレイ酒造が丁寧に醸した純米大吟醸どす。すっきりと澄んだ飲み口で、弥栄町の絹の歴史や温泉旅の余韻に浸りながら、静かに一杯傾けていただくのにぴったりのお酒どす。
京都 丹後